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ささやかな灯りの日々。
2017年 05月 29日 桜は雪崩れ咲き身籠るようにふくらんだ幹 羽根を落として躍るように産まれてくる羽根を散らして羽ばたくように産まれてくる 次第に立ち並ぶ都市の光になまめくガラス釣り針を垂らす広告モデルとマスクにくるまれた小鳥の死骸だれも触れぬ祟り神、安らかに眠りこける警察官詐欺師のたまご 羽根をむしられた人々が街の空気に撃たれて山積みに吹き溜まる。ひしめく陽だまりに諭されて靴から何から脱ぎ棄てて裸になって坂をの...
2017年 05月 29日 写真の目をふさぐ あなたが経験してきたあらゆることすべて身を委ねて落としてきたもののすべて写真の端を滲ませるゆるやかな匂い 音 色味のすべて 確固たる信念の下に唇をすぼめて背を丸めた。アルバムの向こう側で霧が立ち昇る山の端に紫蘇の芽吹き連なる色彩の温度をゆっくり束ねていく 手で握るネガの涙を聴いている写真の少女は膝をかかえて満ち足りたコップにひたる一輪の百合のように腿を震わせる、束の間たんぽ...
2017年 05月 29日 女は鬱血したホログラム桜並木を泳ぐ魚 三月の、うつくしい日絡まる車窓新緑と、吹雪がむせかえるほど猛威を振るうひしめく蝶が、墨を吐き空を舐めビルの向こうへ越えていく ブランコに詩を編みつけて幼い私に言葉を教えたい――きっと、完璧な大人になりなさい。きっと。私は垂れ流した滝だった高一の夏ふしだらな時間は素朴に網を張りむっとする岸へ血を届けた 女は鬱血したホログラムススキ野原を噛んだ 眼差し 十月...
2017年 05月 29日 まぶたを閉じても流れない虹 魚眼レンズに切れ目を入れる、メスのつま先で震える分数を溶かし入れながら波動を濃く刻み込むように 盛り始めた夕焼けの呼気をなぞる視座はかち合って桜の編み目を持ち上げる 挿した虹はわたしとあなた両方の眼に二十八色の苛立ちをもたらすようなほのかな苦みで裂けていく 魚眼レンズに消えた痛み日常と彩りを切り分ける例えばここに肉眼を嵌めてみるのです。悲しいときはうるうブルー、微...
2017年 05月 29日 予言者は迷った拳を生きている ふるえる指先に魔物の舌擦り春のように短いまばたきを紡ぐ、祈りの海 縦縞のパジャマに朝陽が照るにぶい鼻先を雨の予感がすり抜ける長い袖に窓の染みが垂れていく 肥えたみどりの滴が光と刺し違えると若く、赤く腫れた後遺症の季節がやって来る スピーカーから洩れる冬の嗄れ声潰してしまえばノー、とは云えず ノートに影を落として50万人の生死の行方を彼女は綴ろうとしている70億人...
2017年 05月 29日 静かに耳鳴りが鳴っている階段の奥で結わえた靴ひもの固い目で亀の甲羅の下で耳鳴りが鳴っている 洗濯物が鳴っているグラスの水が震えているみずからに怯えているようだ地球儀の真裏で魚が跳ねるひしゃげた光に媚びている眠れぬ夜の恋人のように口角に鈍い痛みを乗せて歌っている静かに耳鳴りが降りてくる 深刻な被害者のように道を塞ぐ号外の群れ新聞紙の匂いが絡みつくスーツぴたりと貼りついた口紅で脅す横顔を曇らせた...
2017年 05月 29日 右手で握り締めた海辺の家に侵され始めている 藻が口から口へ渡る唇の皮が潮にひりついて歯ぐきの底をさらっていく、春眈々とみちびかれた導線を知らずに踏みしめる極楽の季節駱駝のこぶに塗りつけた舌ごと引っこ抜かれる季節 神の手で結わえた新緑は濃くわたしの影は薄べに袴に忍び寄る満ち潮が揺られて光を鏡と成す――気味、奇妙、気味が悪い。わたしは幾人もの影とすれ違う誰もが口を真一文字にして桜の空気に耐えてい...
2017年 05月 29日 夕擦れにこくりと頭をかたむける眠り盃を受けた黄昏は煮沸を控えたラクダの毛並みに渦を描いていくさしずめ気配と云ったところだろうか瓦屋根の先巨大なジーンズが色褪せたインディゴを差し向けている 春に出会う人は大きく、透明だ冬に出会う人は色濃く、神妙だ 私はその狭間でどきりとした感触も無く三月を手探りに歩みながらあのジーンズの土臭さを疎むでもなく食むでもなくただ小さな心臓に呼びかけていた、こころ欠く...
2017年 05月 29日 綿棒を当てると目蓋はピクピクと震えていた。 ただあなたを充分に愛していたかった優しく落下した木の枝のように穏やかに。 目蓋の地鳴りは雪融けの景色にせり上がってくる氷柱の声、タイヤの痕虹彩の敷地に人々の営みが添えられていく なつうまれですか と尋ねたらこくん と頷いた。わたしは冬に根をこさえていた 通り雨の余韻踏んだ水滴から授かった芽を繋いでいくそんな季節にめまぐるしく 想いを馳せた 閉じた曇...
2017年 05月 29日 ボタンをはずして胸の隙間へ手を当てる耳が潰れ産毛が湿る躰にふくよかな沼を掘る風が渡っていく 真青な顔した夕暮れが衣服の隙間へ焦がれをねじ込む舌が跳ね唾液がもろい橋を架けていく 細い息太い息こよりをひねていく熱い肩干上がった首棄てられた根に沿ってむなしい汗が流れていくのを薄目であけて見た 下睫毛へ吹きつける郷愁が未だ出会えない時の境地へ現を移す。 空へ噴射する桃の果肉を鳥が浴び羽根を濡らすつや...
2017年 05月 29日 水草のように揺れるカーテン春の息吹未知のこころ窓辺を離れて 流れる方向が決まっていたら楽なのに。河は物言わぬドラマ映しては消える群像劇 海と夢、潮と愛を重ねて心の河口を目指す人々 剥がれていく鱗と過ぎ去りし日の思い出を重ねて心の河口を泳ぐ人々 共に息継ぎする仲間を求めて海のふもとへ宿のない旅に疲れて川底のゴム靴で夜を明かし小石の広げる波紋を怖れた辿り着く日を 胸に抱いて。 進む、とは言い切れ...
2017年 05月 29日 セメントで固められた風鈴が湯舟の中を漂っている。満つる海 剥がれかけた波紋の寝返りが遥か呻いた排水溝に星座のわななきを落としていく 今朝 地下鉄で見かけた「Q」の字の路線をゆっくり這うように天井がよろめいていく 私は板張りの顔をはずして泣きねいた中核を濯ぐ。症状は春に似てそれでいて、初夏の汗かく背中のようにすぼむ躰 抑えきれない 鳴れ 鳴れ と風鈴の紐をよじる内腿にさそり座の残像 たわめいて...
2017年 05月 29日 わからないフリをしていた。不埒な遊泳に囚われて。あなたはずっと感性の拒否をしていた? 振り返れば、若い芽を這う辛辣なふくらはぎの図案。舌の根が痺れるように仔猫が駆けていく―― あなたは立ち止まり仄めく信号機を、おおきな瞳で覗き込む。そこに映るのは突飛な細胞の地響き。海鳴りを逃れた乾きが思惟の電線でたわめいている朧ろげに――。 あなたの横に居ることをすべての電話に囁きたい。あなたが戸惑うその仕...
2017年 05月 29日 木蓮が吹き荒れる夜更け 憎んでいた遠雷もとろけ 庭に一つ 曙が灯る。真綿に張りめぐらされた糸。 放射状に薄明を閉ざすそこから閃く、 何者の型も受けつけぬ 日付けの変わり目。 唸り。 眩暈のみなもと。 時過ぎ去りし と刻まれた 音の目盛り。 たたく掌のやるせなさ、 迷妄 途切れ 本性の拍動、ちらつく草の先端。 まぎわ 断絶の湯ざめ、 夢...
2017年 05月 29日 グラスの水を飲み干すと底で夕陽が透けている滲む、部屋亡き後のすがすがしさは網膜にうつろい水晶体の膝小僧をくすぐる桜河から河へ ようよう 肌理細かく肺さすぶってあまい、 髪を耳に掛け窓を拭いていると崩れかけたピアノの音が十年前と同じように響いてくる布越しのてのひらに雨垂れの幻影を重ねている 新芽 蒼高き卯月の空。息さすらうほう南東トクトク、扉の取っ手がガチャリと鳴って恍惚をぬすむ。 素知らぬ夕...
2017年 05月 29日 春の 澱んだ空気が街に沈んでいる きのう裸を見せたせいだろうかおなかが鈍く重たいミネストローネの水溜まりを踏む足取りから 尾ヒレに変わっていく 峯に白むうつけたようなラインが気泡を吐いて鳥の羽ばたきにからまり合う わたしも がんじがらめ飴玉舐める口元だけが解放されて桜の花弁にやわらかに身を寄せる 記憶にないあたたかさを老いた幹から吸い出して無音のプールを出航すれば岸辺の街遠ざかり長針を背負っ...
2017年 05月 29日 心に港の在り処を探っている春めいた陽気から曇り空に到る道を桜の芽が 不安げに見つめている。 鮫一人狼一人電信柱の脇や、商店街の裏道にハミングを漂わせみずからも泳いでいく 沈丁花の ゆらめく芳香にまみれて吠えさかる狼の毛並みが陽射しにあわだつ。鶯がとろり とろりと詠うのを間近に見ては鋭い眼光で切り裂く。 鮫は のたりと裏返り煤けた人街の稜線におのれの背を重ねては風圧に目覚めていく木の枝をたった...
2017年 05月 29日 夕霧にあまねく糸の連なりを鳥のくちばしが濡らしていく 会話の糸名残の糸浅瀬の糸飽和の糸蜘蛛の糸 切り裂く爪にあらがいながらぷつ、ぷつ、と途切れていくその糸にあなたは目を細めている 六つ目の糸がはじけたときピントをはずれた私を追ってまたたきの数、上下運動をくり返すあなたにも細かな息が 白線を産む。 幾年月尖らせた空を削りながら雨は私たちの影を掻き開き、深く 太く 昏い昏い 根をおろす。 梟のよ...
2017年 05月 29日 記憶は なお美しい記憶よりも なお美しい 横顔 葉が鈴のように拙く触れ合うのを近くで眺めていた。時は暮れ沈黙の中に潜っていく 馬鹿げた季節 めぐっていく横やりの言葉とは 裏腹に。 ポケットに冷たい手転がして地球の自転を宥めている。まばたきは霞んで陽に透ける 心に映る移ろいを潔く断ってしまえば楽に息も吐けるだろう。束になった哀しみを空になった約束を太い生命に生る果実とともに齧ってしまえば飲み下...
2017年 05月 29日 まぶたの奥に駆け込んだこども流されなかったわたしのこともつぶして走り去る バスの中で赤ん坊と交わした次の世で出会う約束母の手で揺さぶられ景色はやさしく軋み出す未熟なクチビルがぷつりと途絶える音電信柱から墜ちたなめらかなビロウドの実 ここにもデリーは降らないのだった 線路から生えたバオバブ白夜の酩酊にほどかれた人魚が轢かれてはためく目一杯ウロコをかざしてもしもし海よ、と呼んでいるもしもし海よも...