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ホログラム

女は
鬱血したホログラム
桜並木を
泳ぐ魚

三月の、うつくしい日
絡まる車窓
新緑と、吹雪が
むせかえるほど
猛威を振るう
ひしめく蝶が、墨を吐き
空を舐め
ビルの向こうへ
越えていく

ブランコに詩を編みつけて
幼い私に
言葉を教えたい
――きっと、完璧な大人になりなさい。
きっと。
私は垂れ流した滝だった
高一の夏
ふしだらな時間は素朴に網を張り
むっとする岸へ
血を届けた

女は
鬱血したホログラム
ススキ野原を
噛んだ 眼差し

十月の早い朝
焚火が井戸から
放たれた
漕いでいく炎 は
まなこで溢れ返り
いくつもの教訓を、私に授けた
――足を切り、腕を切り、唇を切って、
身を捧げなさい。
耳はそっと
左耳だけ
厚みを残して
他はすべて切り刻んでしまいなさい。
女の一生は
輪を使い回すことで
成るのです。
きちんと部品を使い分けなさい。
心臓は?
指は?
模糊とした夢は、どこで
いつ誰が
繋ぎ留めてくれるのか
星の地図は
ないけれど

女は
片耳だけの、ホログラム
遠い言葉に
くすぐられる

愛だけは樅の木のように
一年に一度
飾り立てられ、
妖しく風を誘う。
渦巻くプレゼントの箱に
ひとつだけ
嘘が混じっていても、
リボンを解いて
叩き壊してしまいなさい。
罪は忘れてしまいなさい
どれだけ自分を守ろうとしてきたか

聖夜に轟く
なつかしい悲鳴
お隣も
そのお隣も
易しい分解と
再統合を
繰り返す
私はこっそり吐息を馴染ませる。
キャンドルの水面が
部屋に
波紋を広げても
どこか行く場所まで、届かない
輪切りの身体を
ワインで暖めて
冷えた海から
立ち昇る
幻を
見つめた

今日という粒子。




by chika14412 | 2017-05-29 20:38 | 詩【~2017 春】 | Comments(0)