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形見。

誰かのこころの
余白に住み込むことは
勇気が無くても、できる。

棘を抜いてくれた
父の手は
きっと棘より
硬いのだろう、と

光は白くもなく
また、真新しくもなく
剥げた潮騒のように
間近な迫力で
弧を圧し

照る、照る、満ちる
照る
満ちる と
差異をなめる

目で見た手しか、握れないなら
目で見えぬ手は、放たれたまま
海賊が投げる指揮棒
荒い波も
歌わせる

菜の花 ひばり 熟れ 名残り
ページをめくれなかった本
辛辣な身体検査
カセットテープ
下肢 記憶の奥にまたがり
アラームの鳴り続ける道を
産ぶ こすり 重ね 泣くこと
綴り、間違えた

恩に層はなく
歳月の層に
今日の陽は照らない
ならばそっと、
見えない手を差し出して
埃をはらう、
根を 澄ます。

それはいつか
路肩に停めたトラックのように
煙った匂いと
洩れ出る ラジオ
野球の声援に

硬質な、甲高い、統べた音――

温和
から 遠く、
近いもの。




by chika14412 | 2017-08-15 01:01 | 詩【2017 春~】 | Comments(0)